お疲れです

 トレス台の上にぐったりとうつ伏せになった。今週の原稿は港浦さんが今持って行ったし、アシスタントさんもみんな帰した。次週の分の原稿は下書きが上がったばかりだ。
 疲れた。とにかく疲れた。週間連載の大変さを今更ながら思い知る。アシスタントが3人と、僕とシュージンと見吉。6人体制でこれだ。学校に行きながら(本当に行ってるのかどうかは知らないが)アシスタント2人で週間連載を回している新妻エイジは、本人の筆の早さもあるが本当に例外なんだと痛感した。
 いや、ここで新妻エイジに負けたくない。気持ちだけでも負けたくない。負けたくないがとにかく今は疲れた。疲れたのだ。
  今仕事場には僕しかいない。シュージンは見吉を送って行った。僕も帰るべきだが、疲れて一歩も動きたくない。このまま仕事場に泊まってしまおうか。そして明日はここから学校に行こうか。明日は土曜だし学校には行くべきだが、正直だるい。一応学生だからそれなりに行っておかないと。成績以前に出席日数で卒業できないなんてことは避けておきたい。
 とりあえず泊まるとしてもせめて電気は消しておかないとだめだ。でも動きたくない。でも光熱費が。と一人ぐだぐだと考えていると、玄関のドアが開く音がした。アシスタントの誰かが忘れ物でもしたんだろうか。うつ伏せになったままだと格好がつかないので、とりあえず上体を起こしておいた。しかし仕事場のドアを開けて入ってきたのは、アシスタントではなくシュージンだった。見慣れたジャージ姿で、おつかれーと僕に声をかける。
「帰ったんじゃねーの」
「ん、ちょっと忘れ物」
  そう言ってソファに手を伸ばすと、いつも首にかけているヘッドフォンを拾い上げた。手馴れた様子で首にかけると、満足そうに微笑む。
「別に今日じゃなくても良かったんだけどな。ここ通りかかったらまだ電気付いてたから、サイコー大丈夫かなーって思って」
「……ヘッドフォンのついでかよ」
「ヘッドフォンがついでだって」
  シュージンは軽く笑うとソファに座った。僕は体面を気にする必要もなくなったので、顔だけ上げた状態でトレス台の上にぐったりとうつ伏せに倒れ込む。「コーヒーでも淹れようか?」と聞くシュージンにいらないと答えて黙り込んだ。
「大丈夫か? 帰れる?」
「正直だるい……すっげ疲れてるし……」
  だからもうここに泊まってしまおうとさっきまで考えていた。動くのが面倒だからここに泊まる、玄関の鍵を閉めといてくれとでも言えばシュージンは了承して帰宅するだろう。一言そう言えば済むことだ。でも、シュージンの顔を見たらそのまま家に帰したくなくなった。シュージンが仕事場に泊まることは別に珍しいことではないが、僕から泊まれと言ったことはあまりない。言ってしまおうか、どうしようか。身を乗り出して心配そうに僕の顔を覗き込むシュージンの顔が見える。淡い色の髪に隠れた眉がハの字を描いている。帰したくないのは単純に一緒にいたいとか、そう言う気持ちもあるかもしれないが、残念なことに今回はあまり良い意味での気持ちではないと感じていた。
 ふと昔読んだ本を思い出した。人間に最後に残るのは本能だと書いてあったのは、何の本だっただろうか。僕の場合も最後には本能が勝つのだろうか。そしてこの場合「残念」の言葉が掛かるのはシュージンだった。
「シュージン見てたら勃った」
「はぁ!?」
  突然の僕の言葉に、シュージンは耳を疑っているようだった。まあそうだろう……。自分でも何で今勃つのかわからない。でもその疑問すら、考えることがひどく億劫だ。これが本能だけが残った状態なのだろうか、と考えただけでも僕の頭は精一杯だった。次の瞬間には本能が僕を支配し、気付いたときには今までだるく沈んでいたとは思えないほど身軽な動きで席を立っていた。
そしてそのまま固まっているシュージンの側まで行くと、床に押し倒したのだった。
  シュージンの首に掛かったままのヘッドフォンが、床とぶつかって固い音を立てた。邪魔だったのでさっさと外してソファの上にぶん投げる。ヘッドフォンは奇しくもシュージンが取りに戻る前の位置に戻った。
「シュージン、したい。させて」
「え? え?」
  簡潔にそれだけ言うと、返答を得る前にジャージのジッパーを一気に下ろした。着込んでんじゃねーよと自分勝手なことを思いながら、中に着ている厚めのTシャツを首元まで捲り上げる。急に素肌が空気に晒されたことで、シュージンの身体が寒さにぶるりと震える。暖房の温度は適温だが今は冬だ。さすがに素肌は寒い。別に暖める気はないが、その素肌に手のひらを這わせる。
「サ、サイコー、何で……」
「だから、したいからだって」
  頭が良いくせに、何で一言で理解できないんだろう。僕の思考能力が下がっていなければ、シュージンの困惑ももっともだと考えただろうが、生憎今の僕は本能の方が優先されていてマトモにものを考えられなかった。それでもシュージンが拒まないことを知っている。何故ならシュージンは僕のことが好きだからだ。それはもう好きで好きで仕方がないからだ。そんな事はわざわざ言葉で確認しなくても態度で知れる。だからシュージンは僕のすることに文句は言わないし、基本的には何でも受け入れる。今だって困惑はしているようだけど、密かに喜んでいることも知っている。
 シュージンの眉は相変わらずハの字を描いている。それはさっきまでの心配の顔ではなく、困惑と期待の顔だ。僕はシュージンのこの顔が好きだった。やがて赤くなり涙と涎と色々なものでドロドロになるからだ。僕は正直言うとさっさと挿れたかったので、上半身の愛撫もそこそこにシュージンの下着とジーンズを一気にずり下げた。空気に晒された下腹部はもう勃ち上がりかけている。
「もう勃ってんのかよ」
「う、だ、だってサイコーが……」
  僕なんか多分完勃ちに近いし、シュージンのことを言えた試しじゃなかったが、あからさまに手を抜いた触り方でも勃つことに驚いた。僕が触るなら何でも良いんだろうか。その反応が可愛く思えて、褒美のようにシュージンの乳首を摘んで捏ね上げた。
「あっ、ん……!」
  びくりと身体が震えた。いつもだったらここでもう少し弄ってやるとシュージンも悦ぶのだが、今は自分のことしか考えられなかったので、さっさと手を離して下半身に手を伸ばした。シュージンの目が明らかに落胆を訴えている。あーうぜえな。物足りないんだったら自分で弄ればいいじゃんか。シュージンからおねだりでもすれば、考えないでもないけど。でもそう言う態度もちょっと可愛いと思う僕も大概だ。
  シュージンの下肢をゆるゆると刺激してやり、その奥の機嫌を伺ってみる。そのうちにシュージンの目はだんだん潤み始め、半勃ちだった下腹部は角度を増して主張をし始めた。
「ん、んっ……」
  手で口を押さえて必死に声を押し殺している姿が気に入らなくて、竿を扱く速度を速めた。片手で扱きながらもう片方の手で先端を包み込むように握り、カリを指圧で刺激すると抑えきれない声が漏れた。自分の唾液をシュージンの先端に垂らしてそれを馴染ませると、それを見ていたシュージンが顔を真っ赤にする。僕は見せ付けるようにニヤニヤしながら扱き、シュージンを追い詰めていく。先端からは先走りがじわりとにじみ始めている。まだ声を押し殺しているつもりのシュージンは、いやいやと頭を振って快感に耐えていた。頭を振った拍子に眼鏡がズレてしまい、それに気を取られたシュージンが慌てて眼鏡を掛けなおそうとする。
「シュージン、余裕じゃん」
「え、うわっ」
  眼鏡に気を取られたシュージンにイラッとしたので、腰を掴んで一気に身体を反転させた。突然のことに掛けなおそうとした眼鏡も、はじかれて離れていってしまった。シュージンが少しあせっている。そのまま腰を引き寄せ眼鏡から遠ざける。そして目の前にある尻たぶを両手で左右に広げ、僕が今一番欲しいもの、と言うか挿れたいところを露にした。
「や、やだ、サイコー! それやだっ」
  シュージンが何か言ってごねているようだが、無視。まだ窄まったままのそこは、淡く色付いていた。人差し指にたっぷりと唾液を含ませ、入り口を突付いてみる。突付く度にひくひくと反応するそこを見て、僕の下肢に血液が集まった。
 そろそろ外に出しておかないと下着がヤバいかも知れないので、ジーンズのジッパーと下着を下げて、すっかり勃起したものを取り出した。案の定先走りに濡れている。蒸れた場所からの脱出にほっと息を吐く。まだ準備も出来ていないけど、先端を入り口に押し当ててみた。シュージンが大きくびくりと震え、怯えた顔を僕へ向けた。泣きそうな顔だ。
「無理……まだ無理だって……」
「ま、まだ挿れねーよ」
 でも本当は今すぐ挿れたい。あー挿れたい。挿れたい挿れたい挿れたい。もう頭の中が「挿れたい」そして「出したい」ばっかりだ。そんなことをずっと考えながら、先端でぐりぐりと入り口を刺激し続けた。押し付けては離し、また押し付けることを何度も繰り返すと、くちゅ、と僕の先走り液が窄まりに押し付けられて、そこは不規則なツヤを生み出した。まるでそこが自然に濡れ始めたかのように見える。
「あ、あ」
  押し付けられているだけでも感じるのか、シュージンは上半身をくたりとさせびくびくと震えている。腰だけ上げた体勢がひどくいやらしい。しかし慣らさないと挿れるに挿れられないので、仕方なく押し付けることを止める。先走り液の引く糸が未練たらしく見えて、さっさと挿れたいと言う僕の心を代弁しているかのようだった。散々押し付けた僕の先走り液と唾液を混ぜ、まずは指を1本挿れる。指1本でも締め付けられる感覚に、また頭の中が「挿れたい」ばっかりになる。何度か出し入れをして様子を見、指を1本増やした。
「は……、んぅ……、っあ、あ」
  片方の手でシュージンの竿を握ってみると、ドロドロだった。ふるふると震えるその先端から、とめどなく先走りが溢れている。筋を沿うように指を這わせて液体を拭き取ると、今は抑える気もないのか甲高い声が上がった。指はもう掻き混ぜるようにシュージンのそこを犯していた。何度も唾液を垂らしながら、中を広げるように滑りを良くしていく。湿った粘着質な音が部屋に響いた。
「ひぁっ……! あ、あ、あぁっ……」
「すげー中ひくひくしてる」
「や、や……」
「早く挿れてー……」
  息と一緒に吐き出された声が、自分でも切羽詰っていると感じて苦笑した。片手で前をゆるく撫で、もう片手の指で入り口をほぐしながら、シュージンの喘ぎ声に耳を傾ける。時折すすり泣くような声が混じっているようだし、もう大丈夫だろう。シュージンは気持ちが良いと泣くからだ。ここも十分ほぐれた、と思う。
「あっ……!」
  入り口から指を抜くと、そこが名残惜しそうにひくついた。僕は無意識に自分の唇を舐め何度か自分のものを扱くと、先端をそこに押し付けた。今度は無理とは言われない。
「もういいよな?」
「ん、んっ……ふ、あぁっ!」
  挿れたくて仕方なかったそこに押し入る。ゆっくりゆっくりと、ゆるい快感を味わうように腰を進めた。中はキツく、僕を容赦なく締め上げてくる。やがて全てが収まると、改めてぞわぞわとした快感に支配された。シュージンに確認も取らずに、動き始めることにした。その細腰を掴んで腰を引き、また進める。それを何度か繰り返し速度も速めていくと、肌同士がぶつかって乾いた音を立て始めた。
「あっ、あ、や、サイコー、や……!」
「やっべ、すげー気持ちいー……」
  そう言えばゴムしてないな、と今更思い出した。まあゴムない方がシュージンは悦ぶし、いいや。床にべたりと這うような体勢のシュージンは、フローリングに爪を立てながら喘いでいる。後ろから無理やり犯しているような錯覚を覚えて、興奮した。少し視線を下に向ければ、シュージンのそこから僕のガチガチになったものが出たり入ったりしているのが見えるのも興奮材料だった。
「あっ、あ、んぅっ……はぁ、あっ」
「っはぁ……」
  僕は獣のように腰を振り続けた。「挿れたい」は達成したので、今度は「出したい」の欲求がむくむくと膨らみ始めた。内壁を擦りながら、身体で覚えたシュージンの気持ちいい場所を突いてやる。
「ぅあっ! あ、やぁっ……あ、あっ!」
  きゅう、とそこが締まった。少し締めすぎじゃないかと思うくらいキツく。連続でそこを突いてやると、きゅうきゅうと何度も締まる。それが気が遠くなるくらい気持ちいい。繋がった場所からは、ぐちゅぐちゅと断続的な音が鳴り響いている。僕の腰が休まらないせいだが、シュージンも結構腰を揺らしている。本人は気付いてないかもしれないけど。
 そろそろイきそうかも、とぼんやり考えながら、挿れてから全くさわっていなかったシュージン自身を撫でてみると、びくびくと身体を震わせてまた締め付けられた。シュージンも限界が近いのかもしれない。
僕は腰を掴み直し、シュージンに覆いかぶさるような体制を取ると抽挿を早めた。ガツガツと餓えたようにシュージンのそこを僕の杭で貪る。
「あぁっ! ひ、あ、あ、ぅあっ……や、あっ」
「は、はぁ、イく、かも……」
「んぅ、あっ、俺っ……も、イく……っ! あぁっ」
  シュージンの喘ぎ声が甘ったるいものから、切羽詰ったものに変わっている。もう一度、震えて先走りを洩らしているものをゆるく刺激してやると、それが決定打となってか甲高い声を上げてシュージンがイッた。手が濡れた感覚を覚えた瞬間、シュージンのそこが一気に締まる。その締め付けに耐え切れずに、ぶるりと身体を震わせて僕もシュージンの中へどくどくと白濁を吐き出した。
「あっ……あ……」
「っはぁ、はぁ…………、あ」
  中に出してしまったことに気付いたのは、全て出し終わってからだった。中に出された感覚にシュージンがまた感じているようで、内壁が不規則に僕に絡みつき震えている。中に出して怒ったことはないから、多分大丈夫だろう。しかし問題はそこではなかった。
「……何か萎まないんだけど」
「え……?」
  僕のものが萎まない、萎えないのだ。普通は出すものを出せば小さくなるものなのに。現にシュージンは出すものを出したので萎んでいる。僕のだけがおかしい。まだガチガチだ。バカになったのだろうか……。
「おっかしいなぁ……」
「やっ……! 動くなっ……あ、ん!」
  考えながらゆるゆると腰を動かす。さっきよりヌルヌルしてて気持ち良い。考えると言ってもやっぱり大したことは考えていない。思考能力はまだ下がったままのようだった。1回出したのに頭も冷えない。結局のところまだ固いままなので、もう1回したいところだ。僕はゆるく動きながらシュージンを煽った。達したばかりの弛緩したシュージン自身に、指を絡ませ軽く扱くと、また甘い声を出し始める。
「シュージン、もう1回」
「あっ、や、やだ、後ろからじゃやだ」
「何で」
「……顔、見れないっ、から……」
  こいつ、こう言うこと言うからなー……。
  今ので確実に体積は増した。本人に責任を取ってもらうとして、とりあえずシュージンの要望である「後ろからは嫌だ」を解消するべく、また腰を掴んで一気に身体を反転させた。ずっと見ていなかった顔は、やはり真っ赤で涙と涎でドロドロだった。その顔がいかにも「犯されました」と言った風で、とてもそそられる。いつもより泣いたのか、目が赤い。膝を折り曲げて抽挿を開始しようとすると、パーカーを掴んで引き寄せられ、軽くキスをされた。
 ……そう言えば今日はキスをしていない。頭の中が「挿れたい」「出したい」でいっぱいだったせいか、考えもしなかった。少し悪かったなと思った。
 唇が離れる前に、僕から舌を差し入れた。そのまま深く食らいつくように唇を貪りながら、膝を折り曲げてゆるゆると動き始めた。シュージンが僕の首に腕を回し、唇が離れるとぼそりと呟いた。
「今日のサイコー、ひでーよ」
  心当たりがありすぎたので、悪いとしかいえなかった。
「……でも好き」
  じゃあいいじゃん、今のなし。とさっきの反省を撤回した。
 頭の中はまだ「したい」「出したい」で占められていて、もう1回して収まるとも思えなかったが、シュージンなら付き合ってくれるだろうと楽観しながら本格的に腰を動かし始めた。
 自分が出したものでヌルヌルして気持ちが良く、結合部分から漏れる水音にまた煽られた。結局抜かないまま好き勝手に3回くらいしたら、夜が明けそうになっていた。
  ……さすがにその後ちょっとシュージンに怒られた。でもやっぱりどこか嬉しそうだったので、あんまり反省しなくても平気だろう。シュージンはイジメられると悦ぶことがわかったし、詫びは次の機会と言うことで。



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疲れマラの話でした……



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