我慢のできない子供の話

 仕事場でいいだろ、とサイコーが言ったので、俺は無言でうなずくことしか出来なかった。今にも舌打ちしそうなサイコーの顔が、今は見ることが出来ない。

 一度サイコーとセックスをしてしまうと、そこから足元が崩れるかのように自制がなくなっていった。案外自分の経験を吹聴するやつも、そうなのかもしれない。もう、そんなやつらのことを悪く言えない。自分も同じになったのかと思うと後悔するが、同じくらいサイコーとのセックスは何度でもしたいと思ってしまうのだ。そして俺の自制は日毎に弱くなり、その度にサイコーは眉間にしわを寄せる。今もそうだ。これでも自制はしているつもりなのだが、サイコーにとってはすっかり『いつもサカッてるやつ』と見られてしまっているかも知れない。
 純愛が好きだとサイコーには言ったくせに、今の自分は純愛なんて遠すぎる場所にいる。あまりにもひどい矛盾に、胸の奥がツキンと痛んだ。以前見吉に「高木はよく一人でわかった気になっている」と言われたことがあるが、まったくその通りじゃないか。何も反論できない。それどころか、サイコーにはもう呆れられているかもしれない。最初の頃のように「うざい」と言われ拒まれでもしたら、立ち直れるかどうかわからない。
 サイコーのことは好きだ。とても好きだ。漫画に誘った時から好きだが、あの時とは違った意味で今は好きだ。それでもこんなにドロドロと考えるような感情じゃなかった気がする。
 執着、しているのか。そうだ、これは執着だ。……いつから俺は、こんなにサイコーに執着するようになったんだろう。

 マンションのエレベーターに乗り込む。箱で運ばれている最中はずっと無言だった。空気が重い。それでも俺の我侭に付き合ってくれるサイコーは、優しいやつだ。9階に着くと同時にエレベーターのドアが開いた。仕事場のドアをサイコーが開く。たくさんのフィギュアが俺たちを出迎えた。まだ外は明るい。同級生は皆学校で大人しく授業を受けている時間だ。俺たちが学校をサボることは珍しいことではないが、こんな理由でサボるのは初めてだった。靴を脱いで先に部屋に上がったサイコーが、俺に背を向けたまま深くため息を吐いた。途端に、押し潰されるような後悔に襲われる。
 やっぱりこんな事言うんじゃなかった。サイコーだって、俺の我侭に付き合うのも限度があるだろう。俺はその優しさに付け込んでいるだけじゃないか。……最悪だ。
  部屋には上がったものの、自己嫌悪がピークに達した俺は、ぐらりと眩暈を感じた。情けなく床にへたり込んでしまう。手は無意識にサイコーの制服を掴んでいた。背を向けたままだったサイコーが、振り返る。見下ろされている。俺はやっぱり立ち上がれない。俯いた。
「なに?」
「……嫌なら、いいからな……」
 サイコーは無言だ。空気が俺を圧迫して来るような感覚を覚えた。じっとこちらを見ている気配を、嫌になるくらい感じる。今どんな顔をしているんだろう。口ではこんなことを言っていても、心の底ではサイコーに拒絶されるのを怖がっている。拒絶されたくない。でも俺はこう言うしかない。矛盾だ。
「俺ばっかその……したがってて、悪ぃ」
  何度か見た、眉間に皺を寄せている顔を思い浮かべてしまう。俺は少し泣きそうになった。そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
「無理して付き合わなくてもいいし……」
「別に無理してないけど」
  沈黙を破って、サイコーが口を開いた。それと同時に、制服を掴んでいた手を振り払われる。俺は思わず顔を上げたが、俺を見下ろすサイコーの顔を見て後悔した。怒らせてしまった、のか。
「ごめ……」
「だから、無理してないって言ってんだろ」
  サイコーの口調が少し荒くなった。考えてみれば、自分でしたいと言って仕事場まで来たくせに、着いたら着いたで嫌ならいいなんて、我侭にも程がある。情緒不安定な女じゃあるまいし、俺は何がしたいんだろう。拒絶されたくない、でも我侭だと思われたくない、都合が良すぎる。喉の奥がツンと痛んだ。泣きそうだった。
 サイコーの手が俺に伸びるのを、視界の端で見た。すると突然肩を掴まれ、俺は勢いよく床に転がされてしまった。床が悲鳴を上げる。少し頭を打ったようだ。
「いって……」
  ずれた眼鏡を直すと、サイコーが俺の上に圧し掛かって来た。決して丁寧とは言えない扱いを受けているのに、俺を見下ろす視線に胸が高まる。
「したいの? したくないの?」
「さ……サイコーがしたくないなら俺は……」
「俺はシュージンがどうなのかって聞いてんの」
「……し、した…………い」
「じゃあする」
  サイコーはそれだけ言うと、すぐに噛み付くようなキスを仕掛けた。少し起き上がりかけてた俺は、また床に頭をぶつけてしまったが、それよりもサイコーのキスが荒々しくて、そっちに気を取られてしまった。
「んぅっ……、っは、ふ……」
  不慣れな舌同士が絡む度に、ぞくりとする。俺もサイコーも、キスが上手いとは言えないと思う。それでもこんなに気持ち良いと思えるのは、相手がサイコーだからだ。舌も、唇も、吐息も、唾液さえも欲しい。愛しい。全部、全部が好きなんだ。
 キスに夢中になっている間に、サイコーはいつの間にか俺の制服のネクタイを解いていた。シャツをたくし上げ、俺の胸元に手を這わせる。サイコーの手は少しひんやりとしていて、俺は少し震えた。舌を絡ませていた唇が離れて、今度は首筋をなぞり、吸う。舌が、唇が離れるのが寂しいと思った。もっと欲しかったのに。でも何か言うとサイコーの気が変わりそうで、口を噤んだ。
「ん、ん、……」
  手と唇によって、俺の肌はぞわぞわと震える。嬉しい。恥ずかしいけれど、それ以上にこうして触れられるのが嬉しい。俺の制服のジャケットは、もう敷布代わり程度の役割しかない。ネクタイはとっくに解けて床の上に寝そべっているし、シャツのボタンは全部外れていた。胸はすっかり外気に触れている。俺は思いっきり服を乱していたが、その原因を作ったサイコーは未だに制服をきっちり着込んでいる。ここに着いたままの姿だ。全く乱れのない姿が寂しくなって、サイコーのネクタイに手を伸ばした。結び目に指を引っ掛けて緩めると、俺の鎖骨に歯を軽く立てていたサイコーが動きを止めた。
「なに」
「あ、ぬ……脱がしちゃ、だめか?」
「……いいよ」
  そう言うと今度は首に軽く噛み付かれて、また俺はぶるりと震えた。サイコーが少し照れたような顔をした。……気がした。頭の片隅で少し拒まれるかもと思っていたので、サイコーに気付かれないように息をほっと吐く。そのままサイコーのネクタイを緩め、しゅるりと抜き取った。肩からジャケットを落とすと、サイコーが俺の胸元をしつこく舌でなぞり始める。
「ふ、あ……ん、んぅっ……」
  乳首を舌で舐め上げ、甘噛みされそのまま吸われる。身体が勝手に跳ねた。ちゅ、ちゅ、と言う音が小さく響き、羞恥に身体を震わせた。声が出るのが恥ずかしくて、手で口を覆ってしまう。するとサイコーが舌を這わせながら俺をちらりと見、口を覆っていた手を剥がしてしまった。
「あっ」
「脱がしてくれるんだろ」
  それだけ言うと、今度は指で乳首をいじり始める。サイコーは、シャツも脱がせと言っているんだろう。弄られているそこがじんじんと甘い痛みを主張し始めていて、頭もぼんやりしていたので、理解するのに少し時間がかかったが、何とか脱がそうとシャツに手を伸ばした。自分の意思とは関係なくびくびくと跳ねる身体を持て余しながら、ボタンを外していく。
「んっ……く」
  もう息が荒くなってしまう。恥ずかしいが、下半身だってもうとっくに反応してた。震える手でシャツのボタンを一つ一つ外す。でもサイコーの唇と手が何かをする度に、震えて失敗してしまうので効率が悪い。
 やがてサイコーの手が、俺のベルトを緩め始めた。聞き慣れた金属音と共に、ウエストの軽い圧迫感が消える。ボタンを外されると、すぐにジッパーの音が響いた。制服と一緒に一気に下着も下げられる。敏感な部分が外気に晒されて、俺は大きくぶるっと震えた。
「もうこんな」
「あっ……や、……っ」
  俺の下肢はすっかり勃ち上がり、先走りでじっとりと濡れていた。それを勃ち上がったもの全体に塗り込むように、サイコーが中心を握り込む。ぬるっとした感覚に、また声を上げてしまう。多分下着も少し濡れていたんだろう。俺ばかり感じてるみたいで、恥ずかしくなる。ふとサイコーの顔を見上げると、少し頬が上気していた。無理して付き合ってくれてると思っていたけど、もしかして、もしかして俺で興奮してくれているんだろうか。
  いつまでも外れないボタンから手を離すと、サイコーの下肢にそっと指を這わせる。突然のことにサイコーがびくりと反応し、少し焦ったような顔で俺を見た。制服越しに触ると、サイコーの下肢は十分反応していた。俺で、興奮、してくれたんだ。嬉しい。すげー嬉しい……すげー嬉しい! 俺は思わずサイコーのベルトを外しにかかった。
「ちょ、シュージン!」
「俺ばっか、ん、ズルイだろっ……」
  サイコーは抵抗するかのように身を捩ったが、構わずベルトとボタンを外した。ジッパーを下ろすと、下着を押し上げて主張しているものが見える。下着を少し下にずらし、サイコーのものをきゅ、と握る。サイコーがびくりと反応して何か言っていたが、手の中にあるものが嬉しくて、聞いていなかった。熱い。固い。どくどくと脈打ってる。嬉しい。愛しい。
 それを握ったまま、思わずへらりとサイコーに笑いかけた。だって嬉しいから、どうしても顔に出てしまうんだ。サイコーは少し顔を赤くしたが、すぐにバツが悪そうに視線を逸らして俺のを扱きだした。
「うぁっ、あ、んぅっ……」
「シュージンっ……手離せって……」
「あ、や……、やだ、俺もサイコーの、する……っ」
  サイコーの手の気持ちよさを感じながら、竿を擦り上げた。熱く固いそれは反り返り、いつもこれが俺の中に入ってるんだと思うと、腰がじん……と重くなった。俺の下肢からは微かに湿った水音が聞こえてくる。上下に扱き上げられるたびに、耐えられずに腰はびくびくと揺れるし、声も絶え間なく出てしまう。それでも何とかサイコーにも気持ちよくなってもらおうと、手を動かし始めた。同じ男だし、自分がどうしたら気持ちいいかを思い出しながら、少し震える手で上下に扱き上げる。時折裏筋をなぞり、先端を指先でぐりぐりと刺激すると、先走りに濡れてきた。とろりとしたそれが、竿を伝って手を濡らす。感じてくれたんだろうか。
「っく……シュージン……!」
「ふ、あ、き、気持ちい……か?」
  サイコーの息が荒い。それを言ったら俺の息なんてとっくに荒いが、少しでも気持ちよくなってくれたのかな、と思うと嬉しくて仕方なかった。もっとしてやりたい。濡れた手でサイコーのそれを上下に扱き上げた。くちゅ、とやらしい水音がした。でも俺の下肢からもさっきから同じ音がしているので、もうどっちから音がしているのかわからない。
「っは、はぁっ……あ、あ、さ、サイコ…あ、うぁっ……」
「っ……く、う……っ」
  サイコーの手に追い上げられて、上手く手が動かせない。それでもサイコーは感じてくれているのか、熱い息が時折俺の肌に触れた。サイコーの手が、指が、俺のものを擦り上げるたびに腰がびくびくと震える。もう、ヤバイ。サイコーの手と、吐息と、やらしい音に煽られて、今にもイきそうだ。サイコーをもっと気持ちよくしたいのに俺だけ先に、なんて。情けなくも震える手で何とか上下に扱いても、サイコーの手の動きに感じてしまい、手つきがたどたどしい。こんなんじゃ、気持ちよくなんてなれないだろうに。
 サイコーの先端からは断続的に先走りが出ている。それを塗りつけた竿はてらてらと光っていた。こんな寝転がった姿勢でなければ、先端にキスでもしたいのに。
「あっ、あ、ダメ、んっ……イっちま……」
「っはぁ、シュージン、こっち……向いて」
  言われるままに顔を上げた。サイコーの顔はすっかり上気していて、いかにも興奮している表情をしていた。そんな顔を見てしまうと、本当に嬉しさがこみ上げる。またへらりと笑ってしまうと、サイコーの唇が降りてきた。唇を舌で舐め上げられ、吐息が漏れる。ねだるようにサイコーの唇を舐めると、深く口付けられた。
「んっ、んく……っは、ん」
  唾液が口の端から零れるのも構わずに、暴れるサイコーの舌を迎え入れた。はぁはぁと、どちらのものかわからない、荒い吐息が辺りに響く。ぞくぞくとした快感が、電流のように身体を駆け抜けた。
「んぅ……っは、あ、あ、ん――――っ!」
「ふ、っあ……っ!」
  キツく扱かれ、サイコーの手の中で思いっきり弾けさせてしまった。ほぼ同時に、俺の手の中のサイコーのものが跳ねて、熱い飛沫が手を濡らした。イったってことは、サイコーのこと気持ちよく出来たのかな……。真っ白になった頭でぼんやり考える。達した余韻で、二人ともしばらく荒い息を吐きながら呼吸を整えていた。
「っは、はぁ……はぁ……なぁ、気持ちよかっ……たか?」
「…………うん、気持ちよかった」
「よかったー……」
  サイコーは照れたように俺の鎖骨に噛み付いた。俺の腹には、自分が放った精液がべっとりと付いていた。そして手にはサイコーの精液が。指で少し馴染ませて、何となく舐めてみた。生臭い味がしてお世辞にも美味しいとは言えないが、サイコーのだと思うと平気に思える。
「な、何舐めてんだよ……! やめろよ!」
「あ」
  何も考えずに舐め続けていたら、サイコーに腕を掴まれた。サイコーの顔は真っ赤で、焦っているみたいだ。……何だか可愛いな。
「サイコーのだから、別に平気」
「おまえそう言うこと……あーもう!」
「いでっ!」
  サイコーが俺の肩を勢いよく押さえつけ、少し上半身を起こしかけていた俺は、また床に頭をぶつけてしまった。
「くそー……泣かせてやるからな」
  サイコーは俺の腹に飛び散っていた精液を指で掬って、俺に見せ付けるように舐めると、そう言った。また、じん……と腰が重くなった。
 達したことで弛緩していると、下着ごと制服を一気に足元までずり下げられた。胸に付くくらい膝を折り曲げられると、さすがに羞恥が湧き上がるが、それと同時に期待も膨れ上がるのは否定できない。サイコーは二人が出した精液を掬い上げると、後孔を指で軽く突付き塗り込み始めた。その感触には、いつまでたっても違和感が拭えない。気遣うような指が何度も入り口を優しくなぞると、つぷり、と中に侵入してきた。1本の指が、様子を見るように奥へ奥へと埋め込まれる。
「ん、んっ……」
「……きつい?」
「平気……っだから」
  内壁をなぞられ、ぶるりと震えた。自分の全てを暴かれるようなこの感覚が、俺は嫌いではなかった。勿論それはサイコーにだけだが、むしろサイコーにならもっと暴いてもらいたい。何度か指を出し入れされると、指が2本に増やされた。くちゅ、と言う音がして、抽挿が少し早くなる。気遣うような優しい指が徐々に暴れだした。抽挿と言うよりは、掻き混ぜるに近い。微かな水音を響かせながら、その指の先がある一点を掠めると、ぞくぞくとした快感が駆け巡った。
「あっ、あ! んぅっ……あ、んっ……」
「……ここだっけ」
  俺はサイコーにしがみ付きながら、快感に耐えた。一度力を失ったはずの俺の中心はいつの間にか勃ち上がり、物欲しげに震えている。サイコーの指がそこばかり集中して擦る。指が中を掻き混ぜるたび、俺は気持ちよくて、でもツラくて仕方なかった。
「ぅあっ、あぁ……っは、あっ……そこばっか……ダメ、だって……っ」
「だめじゃない、慣らさ、なきゃ」
  サイコーの下半身に目を向けると、俺と同じように固く勃ち上がっていた。息もすっかり荒いのに、念入りに指で慣らしている。指が立てるくちゅくちゅと言う音に、耳が犯される。生理的な涙がじわりと浮かんだ。気持ちよくてたまらない。でも指じゃ足りない。サイコーが欲しい。
「やだ、や……もう欲し……サイコーが欲しいっ……」
「……っでも、」
「いいから……!」
  思い詰めたようにサイコーを見ると、困ったような、焦ったような顔をされた。上気した頬が、色気を醸し出している。サイコーの下肢はとろとろと先走りを垂らしているのに、それでも俺がツラくないように気を遣ってくれる。優しいのは嬉しいけど、その優しさがツラいこともある。縋るようにサイコーの肩を撫でて、先をねだった。俺の顔は今、絶対に物欲しげなはしたない顔をしているだろう。でも欲しいものは我慢できない。
「……キツくても知らねーぞ」
  サイコーは根負けしたように、俺の中から指を全て引き抜いた。埋まっていたものがなくなって入り口が寂しく疼いたが、これから来るものにどきどきと胸が高まる。早く、早く繋がりたい……!
「あ、ヤバ! ゴム忘れた……。シュージン、持ってる?」
「え……?」
  サイコーは制服のポケットを何度か探っていたが、見つからないようだった。仕事場にはそんなもの置いてないし、俺は生憎持っていなかったので左右に首を振ると、サイコーが仕方ない、とため息を吐く。
「ゴムないから今日は……」
「えっ、ここで止め……んの? や、やだ」
「やだって言っても仕方ないだろ……今日は出して終わりに……」
「そのままでい……から……」
「え?」
「生でいいからっ」
「ちょ……」
「中で出せばいいだろぉ……っ」
  もう俺は形振り構っていられなかった。とにかく欲しくて欲しくてたまらないから、ゴムがないくらいで止めたくなかった。サイコーが半端なく顔を赤くして俺を凝視していたが、ぐいぐいと袖を引っ張ってねだると、再び膝を曲げられる。
「ホント今日おまえ何なんだよ……」
「何って何……あっ……」
 悔しそうな顔でサイコーは自分のものを二・三度扱くと、入り口に押し当てた。焦らすように先端で入り口を撫でられると、思わず期待の吐息が漏れてしまう。胸が高まる。ぞくぞくと肌が粟立つ。
「……挿れるぞ」
「うんっ……ん、ん、あっ……!」
  キツい圧迫感に襲われた。少し痛みを感じたが、その先の快感を知ってるだけに期待の方が上回る。サイコーの熱さに、腰が甘く疼いた。サイコーが息を詰めて押し入ってくる。俺は浅い呼吸をくり返し、内壁が擦られる感覚にぞくぞくと身体を震わせた。
「全部挿……った」
「んっ……熱、い……」
  ゴムを付けずにするのは初めてだった。直接伝わってくるサイコーの熱さに、ぞくぞくする。俺は付けない方が好きかもしれない……気のせいかもしれないけど、いつもよりサイコーを感じるんだ。動かずじっとしているサイコーを促すように、俺は少し腰を揺らす。するとサイコーはニヤリと、いつか服部さんに見せた好戦的な笑顔を見せた。
「あ、あっ! あぁ、んっ……あ、はぁっ」
  突然抽挿が始まった。ゆっくりとした動きは本当に一瞬で、すぐに激しい動きに切り替わった。さっきまでの優しさが嘘みたいだ。腰をがくがくと揺さぶられ、俺はしがみ付くようにサイコーの首に腕を回した。サイコーの頬に汗が滴っている。ぺろりと舐めた。
「や、あぁっ、ん、サイ……あ、ぁんっ!」
「シュー、ジン……っ」
  打ち付けられる熱さにぞくぞくと快感が走り、身体はびくびくと震えている。繋がっている場所からは、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴り響いていた。サイコーの吐息が俺を煽る。は、は、と言う獣じみた呼吸がとても愛しく、そしてそれにさえ感じてしまう。思わずサイコーを締め上げてしまった。
「シュー、ジン、今、きゅうって、したっ」
「やっ、あっ……、サイ、コーだって、っはぁ、今、でかくなっ……あっあっ!」
  ぐん、と中にいるサイコーが大きくなったのを感じた。どくどくと脈打つ感覚までも。ゴムをしていないからだろうか。中を擦り上げるサイコーの先端が、さっきまで俺をツラくさせていた場所を突いた途端、俺は快感に頭が真っ白になってしまった。涙がぼろぼろと流れる。
「や、やぁぁっ……あ、んっ! ひ、あっ」
  サイコーが俺の眼鏡を外し、遠くに放った。視界が少しぼんやりとしたのは、眼鏡がないせいなのか、涙のせいなのか。サイコーが俺の涙を優しく拭ったので、耳元に唇を寄せてうわ言のように好き、好き、と繰り返した。俺の中のサイコーがまた大きくなって、それを感じてまた締め付けてしまう。もっと欲しい、もっとと疼き、サイコーをさらに誘い込む。もっと欲しい、もっと俺で気持ちよくなって欲しい。
「サイコー、あっ、サイコぉ……! 好きぃ……あ、あぁぁっ……! あぁっ、ん!」
「シュージン……すげ、……気持ちい……!」
「俺も……っ、気持ちい、あ、あ!」
気持ちよさに意識が朦朧としていたら、サイコーが俺の中心を握り上下に扱きだした。そんなことをされたら、気持ちよすぎておかしくなってしまう。
「や、ダメ、ダメ……! そんっ……あ! あっ、あぁっ……ダメぇ、イっちま……」
「っは、はぁっ、はぁ、すげ……かわい……このやろー……」
  みっともなく喘いで、泣いて、俺はもう限界だった。熱いものに擦られて、手で扱かれて、サイコーの熱い吐息に中てられて、ぞくぞくと快感がこみ上げる。
「あぁっ、やぁ、んっ……い、イく、イくぅ……っ! も、ダメ、あぁっ」
「お、れも、ヤバっ……」
  まだ俺に気遣ってか、サイコーが俺の中から出ようとした。思わず強く締めてそれを阻止する。
「や、抜くなぁっ……中っ出せってば……っあ、あぁっ」
「……! シュー、ジン……っのバカ!」
  サイコーの抽挿はさらに激しくなり、揺さぶられた俺は快感に食われ、朦朧としていた。喘ぎ声だけがキリがないほど漏れる。ぐちゅぐちゅと掻き混ぜられる音も激しく鳴り響き、サイコーが俺の最奥を突くと、やがて限界が訪れた。
「あ、あっん、イく、あ、あぁ――――!」
「っく……う……!」
  俺が達してしまうと、すぐにサイコーが白濁を吐き出した。いつもはゴムの中にたまるそれが、今日は俺の中へ全て注がれる。中を満たす感覚に、びくびくと痙攣した。
「あっ……熱……ん……」
「っはぁ、はぁ……」
  サイコーは何度か抽挿し俺の中に注ぎきると、ぐったりと覆いかぶさった。吐き出された精液のせいで、変な感じがする。でも、サイコーので満たされてると思うと嬉しかった。しばらく二人で呼吸を整えると、サイコーが上体を起こし、俺の中からずるりとそれを抜いた。栓を抜かれたそこから、とろりと精液が溢れる。そのもどかしい感覚に、小さく声が漏れた。サイコーがそれをじっと見て、唾を飲み込んだが、すぐに視線を逸らして俺から身体を離した。……寂しい。
「……前に俺がさ」
「……うん?」
 余韻に浸っていた俺に、サイコーが話しだす。
「『見吉に溺れて漫画描けないってなるな』って言ったことあるじゃん。……あの言葉、今すげー自分に降り掛かってる気分……」
「え、」
  それって、それって……そう言うことなのか? 俺の頭は正解を弾き出しているんだろうか、思い違いだったら恥ずかしいけど。
「俺とするの、嫌じゃないのか?」
「いつ嫌って言ったんだよ。何でそう思うんだよ」
「だっていつも誘うとしかめっ面するじゃん」
「だからシュージンとか、エ、エッチに溺れて漫画描けなくなったら怖ぇーって言う……そうなったら困るだろ」
「それは困る」
  困る。困るけど、溺れるなんて言われると嬉しくて仕方ない。俺ばっかり好きで、セックスも付き合ってくれてるとばかり思っていたから。自然と笑みが漏れた。
「な、もう一回やろ」
「……おまえ俺の話聞いてた?」
  俺はサイコーの側によると、触れるだけのキスをした。嬉しくて嬉しくてにこにこしていたら、サイコーがつられて笑って、そのまま二人でまた床に沈んで、結局俺の希望通りにもう1回した。終わったらすっかり夕方になっていて、サイコーは次こそ俺に流されないようにすると一人で誓っていたが、俺もさすがに悪いと思ったのでこれからは控えよう、とこっそりと誓ったのだった。
 誓ったところでちゃんと実行できるかは、わからないけど。

 

 

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「俺は週1でも多いと思うんだけどカノジョ(仮)が週3くらいが良いって言うから困ってる」
「俺はもっとしたいんだけどカレシ(仮)が淡白っつーか、あんましたがらなくて……でもしたいから誘うんだけどやっぱ嫌なのかなぁ」
ってだけの話です……



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