ぐるぐる

 中学であった話なら、高校でもある話。

 高校生活も段々慣れてきた。もっとも僕とシュージンにとっては、高校と漫画の両立的な意味も含まれる。両立できてるかどうかはわからないけど、と言うかあまり両立させる気がないと言われれば反論も出来ないけど、とにかく環境の変化には慣れてきた。環境の変化に慣れると、今度は他人が気になってくる。それが今僕の隣の席の奴らから聞こえてくる会話だ。
「もうやっちゃったって自慢してたぜ」
「早くね? 入学して2ヶ月くらいじゃん」
「どっちも初めてじゃなかったんだって」
「つか、いつから付き合ってたんだよ」
  いつかシュージンが言っていた、やっちゃった自慢を今まさに聞いている訳だ。居心地悪い……。そりゃ僕も興味がない訳じゃないけど。僕はもっとピュアでロマンチックなのが良いと思う。
 そ、そう、亜豆と僕みたいな!
  だから18くらいがちょうど良い。18くらいがちょうど良い。18くらいでちょうど良い! だって焦ったって良い事ないじゃないか。良い事ない! 良い事ないって! ない! ない! 絶対ない!
 ……と、今自分に向かって言い聞かせている。こう言うの、昔の人の言葉で禅問答って言うんだっけ。違う気がする。忘れた。……どうでもいいか。
  こんな風に一生懸命自分に言い聞かせているのには理由がある。シュージンだ。運良く同じクラスになれた縁もあってか中学の頃と同じように一緒にいることが多いんだけど、困ったことに最近ムラムラする事が多い。……重ねて言うがシュージンにだ。
 何でシュージンにムラムラするんだろう……僕はどこかおかしいんだろうか。この間シュージンが「今日すげー暑い」って言って、髪をかき上げた時に見えたうなじを見てからムラムラする。何でだろう……。
 そう言えばあの日以来、僕はシュージンの首筋あたりばかり見ている気がする。今思えば、なので気のせいかも知れないけど。……気のせいだろう。うん、気のせい。だって男の首筋見たって面白いはずない。
 いや、シュージンにじゃなくてうなじにムラムラした? 僕ってそう言うのが好きだったのか? 自分じゃ気付かない好みと言うか、趣味と言うか、とにかくそう言うのがあったのか?じゃあ他の人のうなじにもムラムラしてたのか? 気付かない内に?
 思い当たることがない……うーん……
  その日一日ぐるぐる考えた僕だったが、「考えすぎ」と言う一言で無理やり解決させた。うん、考えすぎ。考えすぎ。そんな事ある訳ないし。ムラムラするのも多分、周りにそう言う話が増えたからだ。そのせいだ。勝手に耳に入ってくるから仕方ない。多分親以外でいつも一緒にいるのがシュージンだから、一番印象に残ってただけだ。考えすぎ考えすぎ。
「サイコーかーえろ!」
  しかし下校時間になって目の前にあらわれたシュージンが、少し伸びた後ろの髪をゴム(誰に借りたんだ)でちょこんと結んでいるのを見て、今日一日かけて解決した僕のぐるぐるがまた復活してしまった。
 うなじが……。
 ……今すごく責任取って欲しい。
「何それ」
「あ、これ? 髪が張り付いて気持ち悪いって言ってたら女子が貸してくれた」
  何だかムカついたので、シュージンのうなじを指でなぞってみた。シュージンが変な声を出したので笑ってやった。ちょっとすっきりした。
  ちなみにシュージンのせいで復活したぐるぐるは、1週間たった今でも解決出来ていない。シュージンめ……。



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