言ってもいいけど

「シュージン、明日も仕事場来れるだろ?」
  サイコーの言葉に俺は笑って頷いたが、笑うにしても自分の顔が今どうしてもだらしなく思えるのはなぜだろう。サイコーの一言一言が嬉しい。思い出して顔がニヤけてしまうくらい嬉しい。俺、絶対変だなぁ……。
 テンションが上がったままなんだろうか。今テンションが上がるようなことは何もないぞ。でも変な顔してたら恥ずかしいから、サイコーに聞いてみた。
「……別に変な顔はしてないと思うけど」
  そうか、良かった。じゃあいいや。
「けど、いつも機嫌良さそうだなーとは思う」
  機嫌良いのか俺。最近なんか良いことあったっけ? 毎日充実してるから、毎日良いとは言えるような気もする。
「でもクラスメイトの奴とかの前じゃ、そんなに機嫌良さそうでもないみたい」
  へー。じゃあサイコーの前だけなんだ。一番一緒にいるからかな。それとも漫画のことで充実してるからかな。こうお互い切磋琢磨してる感じはあるもんな。サイコーの絵も段々上手くなってきてるし。
「今も機嫌良さそう。って言うか、幸せそう」
  俺は自分で自分の頬をむにむに掴んだり離したりしてみた。自分でもニヤけてんなー……と言うのが良くわかる。これ、幸せそうな顔って言うのか。
 自分で自分の顔を見ないとどんなものかわからないけど、見たら恥ずかしくなりそうだ。やめよう。
「サイコーのこと考えるとこうなるんかな」
  そんなつもりはなかったが、考えてたことが口に出ていたらしい。別に口に出したところで何があるわけでもないが、それを聞いたサイコーが赤くなったり、顔面をひくつかせたり、落ち着きがなさそうに視線をさまよわせたりしていた。顔芸の一種だろうか。よくわかんねーけど。
「おっまえ……ホント恥ずかしいな。」
「何が? 何で? 俺は恥ずかしくないぜ。一番一緒にいる奴なんだから、一番考えるもんじゃね?」
「そう言うこと、わざわざ言う所が恥ずかしーんだよ!」
「えー……」
  反論したかったが、何も言わないでおいた。これはアレだ、価値観の相違と言うやつだ。俺が恥ずかしくないことをサイコーは恥ずかしいと言うのだから、きっとそうだ。逆に俺が恥ずかしいと思うことをサイコーは平気でするので、そうに違いない。うん、解決。でも相手を尊重して、なるべく恥ずかしいと思われることは言わない方がいい、かな。
「俺がサイコーの絵とかを好きって言うのも、聞いてて恥ずかしいもん?」
「絵とか、の中に俺は入ってんの?」
「もちろん。サイコーと、サイコーの絵が好き」
「……そう言うのは別に良い」
  基準がよくわかんねーな……まぁいいか。でもこれってあんまり今までと変わらないんじゃ……?



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